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横浜地方裁判所 昭和45年(む)16号 決定

申立人 検察官 豊島秀直

決  定

(申立人氏名略)

被告人鈴木進、同吉田元治に対する強盗被告事件について横浜地方裁判所裁判官青山揚一が昭和四五年一月二六日なした移監に同意しない旨の裁判に対し右申立人から準抗告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原裁判を取り消す。

被告人鈴木進、同吉田元治を横浜刑務所から大岡警察署に移監することに同意する。

理由

本件準抗告の申立の趣旨および理由は準抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

そこで被告人らの勾留場所移監の当否につき検討するわけであるが、元来勾留という制度は被疑者または被告人の逃亡や罪証隠滅を防止し適正迅速な審判を受けしむることを目的としているのであるから、拘置監を立前とし、唯監獄の数や収容能力に制限があるので警察官署附属留置場を以つてこれに代用することが認められているのである(監獄法第一条)。この意味で勾留場所は拘置監をもって原則とすべしとすることは正当であって、起訴前の勾留は被疑者取調の便宜のために認められた制度であるとする検察官所論の見解は当を得たものとは謂えない。しかし乍ら勾留されているものを捜査機関において取り調べることを法は禁止していないため(刑訴法第一九八条)、捜査の便宜や拘置監の設備の不備などを考慮し起訴前の勾留場所を代用監獄とする取扱が長く慣行として行われてきたことも否定できない事実である。要は勾留の本質と現実的要請の調和のうえに立つて裁判官(または裁判所)が勾留場所を決すべきであつて、捜査につき引当り、面通し、証拠物の呈示等の必要があり、拘置監の人的物的設備の面でこれが実施に困難であるようなときは例外的に勾留場所を代用監獄に指定するのが妥当と思料される。

しかして一件記録によれば、被告人両名は昭和四四年一二月三〇日強盗罪により横浜地方裁判所に起訴され横浜刑務所に勾留されているものであるところ、昭和四五年一月六日に至り、既に別件被害者より届出のなされているタクシー強盗事件三件(被告人吉田元治はそのうちの二件)につき自己が犯人であることを自供したが、これが裏付け捜査は未了であることが認められ、右犯罪の性質からみて面通しや引当り等の捜査方法の必要もあるというべきところ、右横浜刑務所においては勾留中の被疑者または被告人の押送にあたる職員は一五名程度で現状では裁判所の出廷要請に応ずるのが手一杯であつて実況見分や引当り等に職員をさくことは困難であり、また刑務所内には取調室が七室あるが面通しに使う透視鏡の設備などもないことが認められるので、これらを綜合勘案すれば、検察官が被告人らの前記自供から二〇日間捜査について何らなすところなく放置していたことは遺憾ではあるが、前記余罪捜査の限度において移監を認める必要性があるというべきであるから、これが同意を拒否した原裁判は失当であり、本件準抗告の申立は理由があるというべく、刑訴法第四三二条、第四二六条第二項を適用して主文のとおり決定する。

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